教科書と社会をつなぐ探究「ほんまもんの学び」

京都府立嵯峨野高等学校

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教科書と社会をつなぐ探究「ほんまもんの学び」

課題

・探究学習で「信頼できる情報源」を使って学びを深めてほしい
・教科書の知識が現実とつながっていることを知り、学びを「自分ごと」にしてほしい
・高校時代から新聞記事を読む習慣をつける大切さを伝えたい

 京都府立嵯峨野高等学校(京都市右京区)は、約30年前から探究活動に力を入れてきた「探究の老舗校」だ。同校では、教科の担当教員と探究を担う教員、そして図書館司書が連携し、高校3年間を通した探究カリキュラムを組んでいる。

 この探究活動での活用を見据え、嵯峨野高等学校は2025年に日経電子版を導入した。地歴公民科・教育推進部の西村拓真教諭、数学科・教育推進部の森田勝也教諭、学校図書館司書の森地みどりさんに、日経電子版の活用法を聞いた。

1年次の基礎づくりで「学び方」を身につける

 嵯峨野高等学校は、研究活動に主眼をおいた専門学科「京都こすもす科」と、「普通科」の2学科があり、「京都こすもす科」は、さらに「専修コース」「共修コース」の2コースに分かれている。「専修コース」は3年間一環で理数教育を行う理系コース、「共修コース」は1年次では文理共通、2年次で文理それぞれに分かれたカリキュラムを実施するコースだ。「京都こすもす科」が設置された1996年以来、同校は全校をあげて探究的な活動を多く取り入れてきた。

 今回主に焦点をあてるのは、「普通科」と「京都こすもす科共修コース」共通の探究カリキュラム(下図)だ。

嵯峨野高等学校では、1年次より人文科学、社会科学、自然科学、学際の4つの領域から興味・関心に応じてラボを選択する。*令和9年度より全クラスを「京都こすもす科」とする改編を予定

 このカリキュラムで、1年次は「ロジカルサイエンス」と題し、年間を通して文献調査や問いづくり、レポートの書き方など探究の基礎スキルを徹底して学ぶ。2年次では多様なラボに分かれ、本格的なグループ探究へ発展。集大成となる3年次には全員が英語で口頭発表を行い、海外高校生との交流も実施する。また学年を問わず、学会発表など外部での発表も推奨している。

1年次のゴールデンウィークに最初の難関

 嵯峨野高等学校では、英・数・理・国・社などの教科担当と学校図書館司書が連携して探究活動を指導するのも特徴だ。1年次の公共の授業から、探究学習を柱にした課題が提示される。最初の難関は、ゴールデンウィークの宿題だ。

 同校で探究学習を統括する教育推進部の森田教諭は「1年次のゴールデンウィークに生徒は、特定の社会課題を解決するための政策を考え提案をする、という教科科目『公共』の課題に取り組みます。社会課題を見極めるだけでなく、どう解決するかまで考えなければいけません。なかなかハードです」と話す。

 生徒たちは、この「ハードな」公共の課題に取り組むうえで必要な論理的な思考法などを探究の授業で学ぶ。

 その後、2学期を通して「持続可能な開発目標(SDGs)」の17のゴールを題材に問いを立て、小論文を仕上げる。

 この2学期の文献調査で、日経電子版を活用する生徒もいる。「ある班は『義務教育段階で成績によるクラス分けをすべきか』というテーマを設定しました。班のメンバーは日経電子版に掲載された記事「『ギフテッド』教育を本格実施へ 個別カリキュラムで高度な学習(2025年9月5日)」などを取り上げながら、説得力あるレポートに仕上げていました」(森田教諭)

2年次にとりくむ課題研究テーマは、生徒の興味関心に合わせて多様だ。地元である京都をテーマにした課題に取り組む生徒も多い

日経電子版を全面的に活用した授業に挑戦

 日経電子版を使った授業の取り組みは、日々、試行錯誤を重ねている。5月ごろから、1年次の公共を担当する西村教諭は、授業内容に関連する記事をGoogleClassroom(グーグルクラスルーム)で配信、日々の授業で記事を紹介する取り組みを行っていた。

「国際経済・国際政治を捉えるキーワード」授業の流れ

  1. 「国際社会や国際政治」に関する、興味のあるキーワードを教科書から1つ選ぶ
  2. 日経電子版を使い、選んだキーワードで現在起きていることや論点を探す
  3. 記事と教科書とのギャップを考え、スライドに整理する
  4. 3~4人のグループで互いに共有し、視点を広げる

 西村教諭の授業のねらいは、刻々と世界情勢が変化するなかで「現在の論点と教科書のギャップ」を自分なりに考えることだ。

 「ギャップを探す力は、この先の探究活動や大学での研究でも強い基礎となります。まずは『なんとなく』で良いので、その感覚をつかんでほしいと思いました」(西村教諭)

 実際、授業の限られた時間内でも、生徒から多様な気づきや視点が生まれた。

 「ダイバーシティ」をキーワードに選んだ生徒は、日経電子版の「米企業の多様性推進、『文化戦争』の標的に(2024年9月1日)」の記事をきっかけに、「ダイバーシティをただ推進すればよいわけではない」というギャップに気付いた。DEI(多様性・公平性・包括性を高める取り組み)の裏にある、その政治性や複雑さといった課題を指摘した。

ダイバーシティをキーワードに選んだ生徒のレポート。俯瞰的に物事を捉え、単なる調べ学習に終わらず自らの考えを導き出している

 「教科書や資料集と『実際のギャップ』を、少しずつでも自分なりに気付いてもらえたのかな」と、西村教諭は手応えを語る。

授業では、教科書とは異なる“今起きている変化”を生徒たちが自らつかみにいく姿があった

大学や就職活動の前段階で新聞記事に親しむメリット

 探究学習を深めていく上で欠かせない「文献の調べ方」は、学校図書館司書が1年次から指導する。嵯峨野高等学校ではデータベースとして、日経電子版を含め2種類の新聞を使っている。

 学校図書館司書の森地さんは「日経の記事はデータが豊富で国際的なトピックも幅広く扱っている印象です。複数の媒体を使うことで、同じテーマであっても異なる視点に出会うこともできます」という。

 地歴公民科の西村教諭は、高校生の時から新聞記事に深く触れる環境を提供することの重要さも感じている。

 「自分も学生時代から日経を読んでいました。最初は難しかったのですが、読み続けるうちにたとえば『この新聞はこのように論じる』といった、メディアを客観視する姿勢、習慣が身につきました」

 森田教諭も「卒業生から『他の学生にくらべ、大学でのレポートや発表で、リーダーシップを発揮できている』などの声も届いている。高校で学んだ調査力、論理的・批判的思考力が、大学の研究場面でも強みになっているのでは」と話す。

「ほどよい難しさ」が調べる意欲をかき立てる

 西村教諭は今後、授業でさらに日経電子版を活用できると考えている。

 「理系科目や地理でも活用できると思います。たとえば地理では、製造業や工業を扱う単元で、トヨタ自動車がどんな戦略で世界と競っているのか、地理的な要因はあるか、またそれが株価にどう影響するのか、などが理解できれば、政治経済と地理の横断的な学びにもつながります。具体的な企業名をあげることで、生徒もよりイメージしやすくなります」(西村教諭)

 日経の記事の良さは「ほどよい難しさにある」との指摘もあった。西村教諭は「やや難しいからこそ、挑戦したくなる。日経電子版の記事で読むキーワードが専門的であるほど『調べる意欲』を引き出しやすいと感じています」と話す。

 生徒たちは与えられたハードルから逃げることなく、試行錯誤を重ねながら乗り越えていく。その経験は、単なる課題をこなすだけの学びでは終わらない。「自分の力で調べ、そして理解できた」体験が積み重なることで、より深い探究へ踏み出す自信にもなり、次の挑戦へとつながる。

 社会のリアルな変化に触れながら、自ら問いを立て、答えを導き出す。そんな「ほんまもん」の学びを積み重ねた生徒たちは、未来のどこかでそれぞれがリーダーとなり、社会を動かす存在へ育っていくだろう。

左から森地氏、西村教諭、森田教諭

京都府立嵯峨野高等学校

学年:高校1~3年生
教科:社会
授業者:
地歴公民科・教育推進部 西村拓真教諭
数学科・教育推進部 森田勝也教諭
学校図書館司書 森地みどり氏

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