日英対訳の記事で、英語の学習量不足を補完

宮城県仙台二華中学校・高等学校

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日英対訳の記事で、英語の学習量不足を補完

課題

・SNSなどの受動的な情報取得ではなく「信頼できる中立のソース」に自ら触れる習慣を身につけてほしい
・総合型選抜にも対応できる、英文の「量」への対応力と論理的な文章生成スキルを育成したい
・高度な英語習得に必要な時間と、学校のカリキュラムの「時間的ギャップ」を埋めたい

 仙台二華中学校・高等学校(仙台市)は、前身の宮城県第二女子高校から2010年に改称、共学化した公立の中高一貫教育校である。2020年には国際バカロレア(IB)ワールドスクールに認定され、公立校ながら海外大学への進学も視野に入れた、高度な国際教育が行われている。
 もともと英語科教諭であり、現在は中学社会科と高校公民科を担当する久保田 淳教諭は、社会科教育と英語の入試指導の両面を兼ねた、ユニークな実践を行っている。具体的な指導方法や日経電子版の活用方法について、話を聞いた。

英語の「体作り」への課題意識

 久保田教諭は大学時代に政治学を専攻していた経験から、中立で信頼性の高い情報ソースを教育現場で活用したいと考えていた。背景には、SNSなどで流れてくる受動的な情報取得ではなく、生徒自らが能動的に情報を読みに行く習慣が必要だという強い思いがあったという。
 一方で、かつて英語科を担当していた際、生徒たちの「英語を活用している時間」の圧倒的な不足を課題視していた。

 「英検準1級や共通テスト上位レベルの高度な英語習得には、2200~3500時間が必要とも言われます。しかし、学校のカリキュラムだけでは、せいぜい1000時間程度しか確保できない。日本では大人が『何年も学校で英語を勉強したのに、話せない』と自虐気味に語ることがありますが、自分でどれだけ活用時間を積み増せるかがカギなので、それも無理はないことだと感じます」(久保田教諭)

 近年増えている総合型選抜(AO入試)では、英語小論文や面接が課されるケースも多い。仙台二華では、仙台市にキャンパスを構える東北大学を目指す生徒が一定数いるが、同大学のAO入試Ⅱ期では、英語の速読力と論理的思考力が問われる高難度な試験が行われる。日本で育ち日本語を母語とする生徒たちにとって、長文読解に対応できるだけの、英語の「体作り」を中高の6年間で養うことは急務であったという。

英文媒体の和訳記事を活用した「時事English」

 こうした課題を解決するため、久保田教諭は授業外の自主的な活動として、中1から高3まで約100名の生徒が自由に参加登録する「社会科学ゼミ」を開始した。このゼミの主要な取り組みの一つが、日経電子版のコンテンツを活用した「時事English」である。

 そもそもの始まりは「日経ビジネス」に掲載された「The Economist」誌の翻訳記事だった。記事を見た久保田教諭は元の英文記事と一緒に教材化、入試指導していた生徒に紙で配布した。そして日経電子版にも「The Economist」の翻訳記事があることを発見、記事リンクを「社会科学ゼミ」のGoogle Classroomで配信。続いて電子版「Step up English」も長文記事の読解につながる「エントリー」の位置づけで配信を開始した。

 「社会科学ゼミ」の生徒は原文と照らし合わせながら記事を読み、日本語や英語でコメントを返していく。「生徒にはただ読むだけではなく、何でもいいから感想を投稿してほしいと伝えています。英文の多読に加え、記事を通じて興味のある分野特有の言い回しや表現を吸収することを習慣化してほしい、という狙いです」(久保田教諭)

「Step up English」の記事に生徒が英語でコメントし、それに対して久保田教諭が返信する。生徒は英語力の向上に加え、思考力のトレーニングにも取り組んでいる。

 この習慣化は、生徒に確実な変化をもたらしたという。

 あるとき「社会科学ゼミ」生徒の一部から、久保田教諭が紹介した英語でのビジネスコンテストに出場したいとの声が上がった。中には、英語に自信のない高校1年生の姿も。そこで教諭は「Step up English」の記事に毎回英語でコメントを返してみなさい、と指導した。

 生徒たちが記事への英語コメントを継続したところ、開始2週間で単なる単語の羅列からまとまった文章が書けるようになったという。「まだ文法的な誤りはあるが、根拠を示しつつ要点を伝えられるようになった」(久保田教諭)。この取り組みは英語の訓練のみならず、ビジネス・経済分野のニュースに対して自分なりの考えを述べる、思考の訓練にもつながっている。

 例えば、トランプ氏に関するニュースが配信された日には、生徒たちが英語で述べた感想に久保田教諭が「他国との関係が変化するときは、自国の安全保障の変化や、自国のビジネスにもたらすリスクを考える必要がある」「具体的な例を取り入れることで議論がより明確になる」といったフィードバックを行っている。記事内の独特な言い回しについて生徒から「こういう表現があることを初めて知った」という感想も寄せられるなど、生きた英語表現の習得の場となっているようだ。

 また同校では、国際バカロレア(IB)の「Economics HL」の授業でも日経電子版を活用している。生徒が毎週1本記事を持ち寄り、習得した理論に照らして検証・考察する内容で、日本語の記事を使う場合でも授業内のコミュニケーションはすべて英語で行われている。

日経電子版の記事を題材に行う「Economics HL」の授業。教室ではすべて英語で議論が交わされる。

生徒同士が「誰かの学びの足場」になる環境

 「社会科学ゼミ」のGoogle Classroomでは教員が記事をピックアップするだけでなく、生徒同士が互いに面白い記事を紹介し、自分の考えをコメントとして残していく「NIKKEI PLAZA」というコーナーも設けられている。これは教員が先回りして情報を制御しがちな、従来型指導の課題をICTを活用して解決したい、との意図から生まれたものだという。

 クラウド内では教師も生徒も同列の「一参加者」だ。生徒が自由に選んだ記事に触れることが偶発的な出合いを生み、生徒自身が他の生徒の学びを支え、かつ心理的安全性を高める「足場かけ(スキャフォールディング)」となる状態を目指している。
 教員も一人のプレイヤーとして面白い記事があれば参加するが、基本的には生徒自らが発信する立場に立つことを重視しているそうだ。

生徒が関心を持った記事を互いに紹介し、感想などをコメントする「NIKKEI PLAZA」。記事の選択は生徒の自主性に委ねられている。

「AI KUBOTA」による即時フィードバックの実現

 これらの取り組みの中では一貫して、インプットにとどまらない生徒の自発的なアウトプットを重視している。一方で、教諭一人の力で全生徒の生成物に講評することには物理的な限界があった。「本当は、生徒の生成物全てにフィードバックを返したいとずっと思っていた」(久保田教諭)

 そんなジレンマを解消したのが、生成AIの活用である。現段階では同校の生徒は直接AIを使用することができないが、久保田教諭は自らAIを活用してフィードバックを補助する仕組みを構築した。具体的には、Gemini(カスタムGem)に学習指導要領を読み込ませ、「論の立て方」や「内容の十分さ」などを8段階で判定できるようにカスタマイズしている。

久保田教諭が開発した、通称「AI KUBOTA」。生徒全員にきめ細かいフィードバックが可能になった。

 実際に「時事English」など社会科学ゼミのアウトプットや、高校の公共の授業で作成させたミニレポートなども、すべて一度このAIを通しているそうだ。例えば「時事English」の場合は、AIに生徒のアウトプットを読み込ませて「生徒が意図したことの要約」と「生徒が作成した英文の訂正案」など、久保田教諭が重視する指導要素を生成するよう、プログラムしている。その情報を参考に、教諭が生徒へのフィードバック文を編集する。

 このプロセスによって、フィードバック文をゼロから生成する負担が劇的に減り「全生徒の全成果物に、フィードバックする」ことが毎時間可能になったと久保田教諭は語る。このフィードバックの仕組みは授業内で「AI KUBOTA」と呼称している。生徒たちにも「AI KUBOTAによれば……」と話すことで、生成AIを活用したフィードバック文であることを認識させているという。

 AI導入の最大の利点は「AIは疲れない」ことだと、久保田教諭は言う。人間が行う場合、疲労により最初と最後で判断基準がブレることがあるが、AI活用で一貫した基準による即時フィードバックが可能になった。

 久保田教諭は、日経電子版というツールをただ生徒に与えるのではなく、教師自身もプレイヤーとして使いこなすことの重要性を説く。「自分が使ったことないものは使えない。食わず嫌いをせず、教師自身も一人のプレイヤーとして参加することが大切。その上で、中1から地道に『日経に触れる』土壌をつくっていくことが必要だと思っている」(久保田教諭)

 日経電子版を活用した仙台二華の取り組みは、単なる情報収集の枠を超え、生徒の思考力と英語力、そして自律的な学びの土壌を育む基盤となっている。

宮城県仙台二華中学校・高等学校

学 年:高校1~3年生
教 科:社会科・公民科、英語科
授業者:社会科・公民科担当 久保田 淳 教諭

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