進路と現代の課題をつなぐ「よのなかゼミ」

拓殖大学第一高等学校

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進路と現代の課題をつなぐ「よのなかゼミ」

課題

・生徒の思い描く進路に「現代の諸課題の認識・その解決につながる学問選択」という「具体性」を持たせたい
・新聞から幅広く「世の中」を吸収し、進路選択のみならず未来への学びにつなげてほしい
・小論文試験や面接対策に備え、最新の時事情報や専門的な知識を身につけてほしい

 東京・多摩地区の緑豊かな環境で、広大な敷地と白を基調に緑と光にあふれた校舎が印象的な拓殖大学第一高等学校(以下、拓大一高)。1年生は特進コースと進学コース、2年生からは6タイプのクラス編成と、早い段階から将来を視野に入れた指導をおこなっている。同校の特徴のひとつが「進路指導」と「探究」を組み合わせた独自授業「進路探究」の実践だ。
 日経電子版をきわめて活発に利用している拓大一高。実際にどのような指導がおこなわれているのか。総合探究と国語を担当、進路指導部副部長も務める内田大輔教諭、地理総合・世界史探究を担当する野村洋人教諭、公共・政治経済を担当する丸山優斗教諭に、導入の背景や具体的な活用方法をうかがった。

進路探究を見すえ、【小論文指導・総合探究】出題テーマの「背景知識」を身に付ける

 拓大一高では小論文指導、総合的な探究の時間、公共、地理総合など幅広い教科で日経電子版を活用している。

 導入に至る背景の1つ目には、大学進学をゴールとするのではなく、将来の生き方そのものを見すえて考える「進路探究」の実践がある。
 「進路探究」を推進し、総合探究と国語科を担当する内田教諭は、日経電子版導入の背景についてこう語る。

 「1年次に将来の学びを見据えた志望分野を考え『志望分野理由書』として言語化し、2年次は第一志望を選択する理由を『志望理由書』として言語化する『進路探究』を実践しています。その中で、生徒たちにそもそも世の中はどうなっているのか、といった認識や現代社会の抱える課題感などの知識・情報が足りず、うまく探究できないといった壁にあたりました。何か現代社会の解像度を上げる取り組みはできないか、といった問題意識がありました」

 背景の2つ目には、小論文指導や面接指導を通じたある思いがある。
 「一方で国語科教員として小論文指導を進める際、生徒の意見に深みが足りないこと、テーマに関する背景の知識・理解が欠けていることを、常に課題に感じていました。また、3年次の面接指導でも全く同様の問題を感じていました」

 大学入試に向けた指導で、今や欠かすことのできない小論文対策。生徒の小論文を添削すると一般論にとどまるありきたりな内容が目立ち、面接における受け答えも同様であった。その解決策として、物事の背景にある様々な事柄について学ぶ必要性を痛感したという。

 「たとえば『環境問題』というテーマでも、AIが進化、浸透している現状を踏まえて『AIの利用が広がるにつれ、電力消費も自然に増加し、結果として環境への負荷が高まる』といった複合的な観点があります。その考え方は、単に参考書を読むだけでは身に付かないものも多い。だからこそ、最新の時事を幅広く学べる日経電子版が有効だと考えました」

 日経電子版の活用を通じて現代社会の最新の諸課題とその解決策について知り、「世の中」への解像度を上げて進路選択し、学び、社会に出てその知見を生かし深めていく。その過程となる大学入試では、各自の探究した課題感を「志望理由」として表現し、小論文や入試での面接に対しても、与えられたテーマへの最新事例を踏まえた深い理解に基づく「考え」を言語化していく。

 そのように進路探究と密接に関連させながら、小論文指導や面接指導にもつながる総合探究カリキュラムが同校独自の「よのなかゼミ」だ。生徒達はそこで「現代10テーマ」を考察する。

 「小論文試験で問われるテーマは、実は地理総合、公共、家庭基礎、保健など通常の受験科目以外の分野が多いのです。『日経電子版 for Education』サイトで日経電子版を活用した小論文対策のページを見つけ、動画で解説されている『小論文試験に頻出の10大テーマ』を知ったときに、正にこれだと思いました」

 「すべて現代社会で解決策が模索されているテーマであり、世の中に対する解像度を上げることにつながり、また英語や現代文など、他教科の学びにもつながると考え、1~2年生の『よのなかゼミ』に『現代10テーマ』を取り入れました」

1~2年生で学ぶ「現代10テーマ」。学内にも掲示し、常に生徒の目に留まるよう工夫している
生徒に共有される「よのなかゼミ」の実施目的。「進学後の学び」も見すえた目的設定だ

 「よのなかゼミ」は、3時限構成で進行する。事前課題として、長期休暇中に現代10テーマのうちどれかを日経電子版を使って調べまとめておく。1時限目は、まとめ方や記事の引用の仕方などの確認・今後の展開の説明とレジュメの最終仕上げの時間、2時限目と3時限目にはテーマごとに分かれて4~5人程度のグループで共有・意見交換をする。「考える・調べる・伝える」という一連の流れを通じて、生徒は自らの考えを深めていく。

「よのなかゼミ」で「Ask! NIKKEI」を有効活用

 「よのなかゼミ」でプレゼンする際、生徒たちはGoogleスライドで4枚程度の資料を作る。自ら選択したテーマについて調べる際、有用なツールとなるのが日経電子版の「Ask! NIKKEI」だ。

 入学時から1人1台タブレットをふだん使いする拓大一高の生徒たちにとって、日経電子版の活用にそれほど高いハードルはなかった。しかし記事検索や情報の取捨選択のスキルには個人差がある。

 「通常の記事検索だけでは背景知識の不足により、記事を読み解くのが難しい場面もあります。その点『Ask! NIKKEI』は疑問を投げかければわかりやすい回答が得られ、さらに回答の基となった記事を示してくれます。基記事まで読み込むことで、さらに深い気づきにつながっています」

生徒たちは「Ask! NIKKEI」などで得た情報を活用し、解決策をグループで互いにプレゼンする
「格差社会」「ワークライフバランス」をテーマに生徒が作成した「よのなかゼミ」資料(一部)。「Ask! NIKKEI」や検索でたどり着いた記事を有効活用している

 「『よのなかゼミ』で培った学びは、大学進学以降も必ず生きてきます。たとえば『ジェンダー』を研究テーマとした場合、工学部ではものづくりと多様性と結びつけて、経済学部では国の経済政策と関連づけて、研究を進めることができるでしょう。学びと社会課題を結びつける習慣は、社会に出てからも働く動機づけや目の前の課題解決にいかせるはずです」

 「よのなかゼミ」は生徒にとって単なる課題学習を超え、大学、社会、その先の未来を見据えた学びの基盤となっていく。

目的は視野を広げること。ゴールを過度に明確にしない

 「よのなかゼミ」の目的は、あくまで生徒の視野を広げることにあると内田教諭はいう。「互いにプレゼンした後に、グループとしての結論はあえて出させていません。同じテーマでも、選ぶ記事や視点は生徒によって様々です。個人で探究を深め、それらを皆で共有することで全員の視野が広がり、新たな興味・関心の発見や希望進路での学びの深化につながれば嬉しいです」

 生徒は冬期休暇を利用して「現代10テーマ」をさらに複数探究、希望者は3学期には小論文を作成する。既に課題の現状や背景知識を理解しているため、文章が苦手な生徒も取り組みやすくなるという。

 内田教諭は「総合探究は『足し算』ではなく、横に広げながら深掘りすることが大切」と強調する。「よのなかゼミ」を通じてさまざまな科目での既習内容を横断的に掘り下げ、現代社会を深く知り、世の中の解像度を上げ、あわよくばその解決策となり得る学問を進路選択したり、各自の問題意識として追究したりすることこそが、今後の進路先やその後の生徒の未来につながる本質的な学びとなっていく。

【地理総合】新聞記事で出会う「意外な発見」の学び

 地理総合では、授業で取り上げるテーマについて自分の考えと日経電子版で検索した記事を比較する取り組みを行っている。担当の野村教諭は「生徒はまずテーマについて自分なりに考えます。そのうえで検索で辿りついた記事で自分の考えとの相違点に気づき、新たな発見に出会うのです。そうした新たな発見をクラスで共有するため、週2コマのうち1コマ、授業内の10分前後を使って継続して取り組んでいます」と説明する。

 例えば「永久凍土が融解したときのデメリット」をテーマに設定した際、生徒たちは「建物が傾く」などの意見を述べた。しかし日経電子版で検索してみると「永久凍土の下で眠っていた有機物が融解、病原菌が放出され感染症が広がる懸念がある」という記事に出会い、温暖化の意外な影響に驚きの声があがったという。

 野村教諭は日経電子版の活用方法を「教員が記事を指定する」「『Ask! NIKKEI』で調べる」「記事検索を行う」の3パターンに分類。

 「じっくり読ませたいときは指定記事を、効率よく幅広い答えを見出してほしいときは『Ask! NIKKEI』を使います」と、目的に応じて使い分けているとのこと。内田教諭同様、野村教諭も「必ずソースとなった記事にあたること」を徹底して指導している。

 実際の効果も見えてきた。教皇選挙をテーマにした際、「次の授業までに調べておくように」と伝えたところ、生徒たちは早速「Ask! NIKKEI」で次期教皇の候補者について調べ、意見を述べたという。授業をきっかけに、通学時や自宅でも自然に日経電子版を読む生徒が増えているようだ。

【公共】「時事ネタ共有タイム」で自身のキャリアにもつながる情報収集を

 2年の公共では毎回、授業冒頭の5~10分を「時事ネタ共有タイム」としている。生徒たちは日経電子版の朝・夕刊1面の見出し一覧から気になった記事を選び、近くの席のクラスメイトと共有する取り組みだ。開始当初は戸惑いを見せていた生徒たちも、2学期にはニュースについて自然と会話が盛り上がるようになった。公共を担当する丸山教諭によると、最近は「イグノーベル賞」の記事が大きな話題となったという。

朝・夕刊の1面見出し一覧のページを示す丸山教諭

 「新聞やニュースに触れる習慣が薄い世代だからこそ、皆で共通してニュースに注目する糸口として『時事ネタ共有タイム』を設けました。2年生は大学進学の第一志望校を決める時期でもあります。この時間をきっかけに特定の分野に関心を持ち、『それをより深く学べる大学』はどこかと、自身の進路を考える出発点にしてくれれば嬉しいです」と語る。

 さらに定期試験では「日経電子版を読むことを習慣化させるための問題」を5問程度出題している。「公共は生活に最も直結する教科。身の周りの出来事に関心や疑問を持ち、興味を深めるきっかけにしてほしい」と期待を寄せている。

2年生公共の定期テスト(一部)。時事性の高いテーマを出題することで、ニュースや社会問題へ関心を持たせるねらいだ

【朝読書】ホームルームの5分を活用。教員提示の記事から徐々に生徒自らの選択へ

 日経電子版の活用は授業時間に限らない。1~2年生の朝ホームルームでは、週1回「朝読書」として日経電子版を読む時間を設けている。1年生の1学期では導入として、教員で組織する「総合探究委員会」が「文系寄り」「理系寄り」「短め」3種類の記事を選び、生徒に提示する形から始めた。

 生徒が慣れてきたら、各自が関心ある記事を自由に選んで読む形式へと発展。モチベーションを高めるため、読んだ記事の内容や感想をアンケートで回収し、クラスでシェアする仕組みも導入した。内田教諭は「ポジティブな情報を共有するよう心掛けています。クラスメートが本格的な記事を読む姿に刺激され、自分も挑戦しようとする雰囲気が生まれています」と語る。

今後は教科横断型の学びで興味・関心を引き出したい

 日経電子版の活用で、今後は「教科横断型の学び」を目指す。丸山教諭は語る。

 「たとえば金融関連の特定の記事を題材にしても、公共なら民間の金融機関や政府の視点、家庭科なら家計の視点と、異なる切り口で学ぶことができます。複数の教科で同じ記事を扱うことで、生徒は教科横断で学びが広がり、さらに深い理解につながると考えています」

 内田教諭は「生徒の世の中への解像度を上げること」を重視する。

 「記事を読んで知識を得るだけでなく、さらに深く掘り下げたり、記事を比較することで新しい視点を学んだり、様々な方法で生徒の興味関心を引き出し、より主体的な学びに発展させたい」と語る。

 世の中を知り、視野を広げ、深く学び続けること。それこそが、拓大一高が取り組む、生徒の未来へとつながる本質的な学びなのだ。

左から丸山教諭、内田教諭、野村教諭

拓殖大学第一高等学校

授業者:
内田 大輔 教諭 進路指導部副部長 国語・総合探究担当
野村 洋人 教諭 地歴公民科 地理総合・世界史探究 担当
丸山 優斗 教諭 地歴公民科 公共・政治経済 担当

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