インフレ時代に金融リテラシーを身につけてほしい 大和証券グループの金融経済教育への取り組み
新NISAやiDeCoなどの取り組みを通じて、「投資」は私たちの生活に身近になりつつあります。大和証券グループは次世代を担う若い世代に、資産形成に必要な金融リテラシーをしっかり身につけてほしいとの思いから日経電子版 for Education導入校向けに金融経済教育の授業を提供しています。日本の金融経済教育の現状と課題、あるべき姿をどう考えるのか。金融機関としての方針や取り組みについて大和証券グループ本社 金融経済教育担当の田代桂子副社長に聞きました。
――金融経済教育の重要性と、日本で浸透させるための課題をどうご覧になりますか。
日本では今、資産形成のための金融リテラシーを一人ひとりがしっかり身につける必要性が高まっていると感じています。長く続いた(モノやサービスの値段が下落する)デフレが終わりに向かい、物価上昇が続くインフレ経済が始まっています。都市銀行の定期預金の利息は0.1%程度。数年前まで0.01%程度だったことを考えれば上昇しましたが、100万円を預けても年に1000円しか利息が付きません。一方、現状の物価上昇率は2%を超えています。「貯蓄」だけをしていたら、上昇していくモノの値段に対して資産価値が目減りしてしまうのです。
金融経済教育の重要性が高まっている一方で、日本では投資に抵抗感があったり、金融リテラシーに自信がないと話す人が多く、これには根深い背景があると感じています。子どもの頃、もらったお年玉を親に渡して貯金してもらっていたという方も多いのではないでしょうか。日本に根付く「お金を貯めることはいいこと」と考える文化が、価値が変動するリスクのある投資より、コツコツ貯蓄する方が正しいと考えてしまう土壌となっているように思います。

お小遣いはもらわず稼ぐアメリカ
たとえばアメリカでは子どものうちから「お小遣いはもらうものではなく、稼ぐもの」という文化があります。家の中でお手伝いをして、その対価として受け取るのです。中学生や高校生でアルバイトをする子も少なくありません。子どもが自分の意思と行動でお金を稼ぐ、という考え方はリスクを学んだ上で資産を増やす「投資」にもつながりやすいと思います。日本ではお小遣いは親からもらうもので、アルバイトなどを始める年齢も比較的遅いです。そうした「お金」に対する捉え方の違いが投資へのハードルを上げている側面はありそうですね。
――新NISAやiDeCoなど、国の税優遇制度は社会的な価値観を変えるきっかけとなり得るでしょうか。
2024年1月に新NISAが始まりました。iDeCoなどを通じて将来の年金を含めた資産形成を考える機会が増えています。実際に、これまで投資とは無縁だった若い世代の方が投資信託などを購入するケースも増えています。こうした制度ができて若者が投資に少しずつ触れていく、ということ自体がある意味では実践的な金融経済教育になっていると思います。インフレ時代に入った今こそ「貯蓄から投資へ」、「貯蓄と投資も」と、世の中でお金に対するこれまでの考え方を見直し、社会に浸透させる好機だと考えています。
投資を始めやすく、1株からでも
かつては最低投資金額がある程度必要でしたが、今はテクノロジーの進化で1株から株式投資が可能です。毎日100円ずつ投資をしていく、といった仕組みもありますね。そうした観点からも中高年世代よりも若い世代の方の方が投資を始めやすいと思います。
――大和証券グループでは具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。
大和証券グループでは21年に「2030Vision」という経営ビジョンを策定しました。ちょうど2024年にアップグレードしたのですが、人生100年時代を豊かに暮らすための1つの大きなテーマとして金融経済教育を重点施策に掲げています。証券口座をお持ちのお客様に対する情報提供はもちろん、企業に赴いて実施する職域のセミナーなども手がけています。幅広い年代に向けて学びの機会を提供しています。
幼児から高齢者まで、幅広く教育提供を
子どもたちに人気の職業・社会体験施設「キッザニア東京」「キッザニア甲子園」へのパビリオン出展もその1つです。このうち「キッザニア東京」の「証券会社」パビリオンを24年12月に大幅にリニューアルします。
子どもたちは、「ここが良い」と思える会社に投資することや分散投資の重要性だけでなく、株価の動きが世の中の出来事や情報と関係していることを学んだ上で、キッザニアの専用通貨「キッゾ」を使った投資体験を行ないます。長期分散投資を学び、考えてもらうのはちょっと難しいかもしれませんが、弊社としてはチャレンジしてみたい施策です。
――学校への出張授業の取り組みもされていますね。
中学・高校生向けの出張授業にも力を入れています。学校では授業の一環として金融経済教育を学びます。ただ大きな問題として、教える側の先生ご自身が金融リテラシーに自信がないと仰るケースが多く見られることです。大和証券グループの出張授業では先生方と連携し、授業のニーズや課題を伺いながら一緒に授業を作り上げます。
また、授業も講話だけでなく、カードゲームを用いた遊び感覚で楽しく学ぶ授業作りをしています。いつも自分が食べているものや飲んでいるものなど、自分にとって身近なものが、実は株式会社が作っていて株式を発行しているという発見で株式や投資に親しみを持ってもらいたいと思っています。そして、その株式会社の商品を買っている自分たちも日々、経済に参加しているのだという実感を得てほしいと思っています。

金融経済教育は、金融機関にとって重要な使命
先日、日経電子版 for Education導入校での出張授業を見学しました。先生も熱心で、当日は生徒から盛んに質問が出ていました。ただ、1回の授業を提供しただけで「貯蓄から投資へ」と、生徒の考え方を変えられるとは考えていません。
株式相場や外国為替相場は日々目まぐるしく変動します。たとえば1年生の時に注目した株式銘柄が2年生、3年生になった時に株価がどのように変動しているかといった定点観測のような授業ができれば学びも多くなるかもしれません。30年後、40年後を見据えた自分の資産を考えられるよう、社会人として独り立ちする前に、生徒の皆さんの金融リテラシー向上を支援することは、金融機関としての重要な使命だと考えています。
大和証券グループ本社
(2024年当時)取締役 兼 執行役副社長(金融経済教育担当)田代桂子氏

