海城中学高等学校(東京・新宿、以下海城)は2025年10月、中学2年生約300人を対象に、日本経済新聞社の記者経験者が講師となる「インタビュー講座」を開催した。130年超の歴史を誇る海城は、知識獲得型の学力だけではなく、自ら課題を設定して解決に向かう「新しい学力」の育成に力を入れる。今回、同校で開催された「インタビュー講座」の様子をレポートする。
.jpeg)
海城中学高等学校の「インタビュー講座」でのねらい
・探究型の学習で取り入れている外部の方へのインタビューについて、より実践的な力を身につけさせたい
・プロの新聞記者の視点に触れることで、生徒自らが情報収集する姿勢を養いたい
・身近な事象への興味関心から世界を広げ、社会的な事象の背景を考察できる人材を育成したい
インタビューは経験済みだが、課題も
海城の卒業生から「社会に出てから、あの授業の大切さを実感した」と声があがるのが、中学の「社会科総合学習」だ。海城中学の社会科は、探究型の「総合学習」と体系だった知識や教養を習得する「系統学習」の2本立て。総合学習では生徒たちが個人研究の形でそれぞれテーマを設定し、自分でアポを取って企業や地域の人たちへインタビューを行う。それらの活動を通じて得た情報を、学期ごとのレポートにまとめる。
.jpeg)
「学校の外に出て、知りたいことについて自ら情報や現場の人の声を取得してくる。この経験による生徒の成長は大きい」と、社会科の名倉一希教諭は語る。しかし、中学生が初対面の大人と一対一で話し、インタビューをするのは、なかなか難易度が高い。
中学2年生の生徒たちは、1学期に自らアポを取ってインタビューを行った。しかし「まだ表層的な情報しか得られていないケースが多い。もう少し深く、中学生の彼ららしい率直な疑問や考えをぶつけて、話を聞き出せれば良いのだが」と名倉教諭。
2学期以降も、生徒たちによるインタビュー活動が予定されている。これをより充実した時間にし、生徒たちそれぞれの学びを深めるため、日本経済新聞社の記者経験者が講師となる「インタビュー講座」に関心を持ったという。
「取材は準備が8割」が意味することは?
「記者の中には『取材は準備が8割』という言葉があります」
こう語るのは、今回講師を務める日本経済新聞社の黒田信企画委員。新聞記者として、数多くの企業へ取材をしてきた経験をもつ。
まずは新聞記者の基本動作について解説する。特に取材に行く前の調査(下調べ)と、仮説を立てること、この2つの工程で取材の8割が決まるほど、事前準備が重要だという。具体的に、どのような項目で記者が下調べをしているかがスライドで示されると、生徒たちが熱心にメモを取る様子も。
「事前に仮説を立てることで『この仮説を確かめるには、誰に、何を聞けばいいのか』が明確になり、取材の解像度が高まっていきます」
具体例として「コメ価格の高止まり」をテーマに、簡単な仮説を立てるワークをやってみることに。コメの価格の上昇によって、今後起こりうることを考えてみようと促されると、生徒たちからは次々と手が挙がる。黒田は発表を聞き「その視点は素晴らしい!」などとうなりながら、「こうやって仮説を立てた上で取材に行き、直接の対話でしか聞けないことに迫っていく。すると、価値の高い記事になるんです」と解説する。
.jpeg)
失敗を恐れずに、踏み込んでみる
続いて、記者が行う実践的な「本音とリアルを引き出す技術」について。挨拶や自己紹介、取材の機会をいただいたことへのお礼から始まる、インタビューの一般的な流れだ。また既存記事やネットには出ていない情報をいかに引き出すかなど、記者時代の経験をふまえたテクニックが語られた。
生徒が前のめりになったように見えたのが「趣旨とは異なる話題に触れてみる」、そして「自分の直観を信じる」という話だ。
.jpeg)
「趣旨とは異なる話題に触れてみる」とは、雑談や、取材のテーマに関係のない話をしてみること。「今年も暑いですね」といった雑談が、意外なニュース性のある情報を得ることにつながった例もあるのだという。
また「直観を信じる」とは、失敗を恐れない姿勢にもつながる。
「私たちプロの記者でも取材をしていて、『面白い話が聞けた!』と思っても『これはもう既に、どこかで出ている話かもしれない』と自信がなくなるときがある。それでも、失敗を恐れずに踏み込んでみるのが大事」(黒田)
インタビューはコミュニケーション。ただ、決して質問と返答の単純な繰り返しではない。その場で臨機応変に問いを紡ぎ出し、対話を深めていく。
インタビューの実演で見えた、記者のリアルな技術
インタビューで使える具体的なテクニックやキーワードが伝授されたところで「では実際にやってみましょう」と、講師によるインタビューの実演が行われることに。黒田が名倉教諭に「社会科総合学習」の授業についてインタビューをするという内容だ。
事前打ち合わせはなしの、ぶっつけ本番である。
.jpeg)
指名を受けて名倉教諭が前に出ていくと、生徒たちからはワーッと歓声が上がる。しかし、いざインタビューが始まると、会場はしんと静まり返った。黒田の問いかけを一言も聞き漏らすまいと、生徒たちが固唾を飲んで見守っている。
数分の実演ではあったが、これまでの講義に出てきたテクニックがふんだんに使われているのがわかる。
「でも、それって生徒にとってハードルは高いですよね。何か工夫していることがあるんですか?」
「たとえば、どんな時に?」
と、たびたび視点を変えながら名倉教諭から具体的なエピソードを引き出していった。
実演が終わると、会場は拍手喝采に。インタビューを受けた名倉教諭は「これまで生徒にも話したことがない話を、つい喋ってしまった」と驚きの表情だった。
講義中には元記者の視点から、生徒たちのアウトプットを高めるためのアドバイスも。取材候補は複数挙げることや、レポートを書くときにも既存情報に終始せず、取材で得た具体的なエピソードや新しい情報をもっと盛り込むと良い、と指摘があった。
講義の後には希望者が残り、質疑応答が行われた。授業でインタビューに臨んだ後ということもあって「アポを取るときのコツ」「話をしている間のメモの取り方は」「取材を終わらせるタイミングがわからない」などと、実践的な質問が続いた。
最後に「記者をやっていて、一番つらかったことは」との質問に対し、黒田が、何度申し込んでもインタビューを受けてもらえなかった経験を打ち明けた。相手のもとに通い詰めても拒絶され、結局インタビューはできず、別のルートから取材をして何とか記事を形にした。「いつもスマートに成功しているわけではないんですよ」と笑った黒田に、生徒たちも思わず笑顔を見せた。
「これからは、新聞記事を読む姿勢が変わるはず」
インタビュー講座終了後、生徒たちに話を聞いた。
太宰健吾さん(中2:取材時)は「失敗を恐れない、という話がもっとも心に残った」と話す。
.jpeg)
「大人に取材をするのはすごく緊張します。迷惑をかけてしまうのではと心配もありました。失敗をしたくないから、できるだけリスクの低いやり方をしようと思うと、事前に送った質問をそのまま聞くようなインタビューになってしまう。そこから深掘りや発展ができないのが、僕の課題でした」
しかし、今回の講義を受けて「失敗は悪いことではないとわかった。取材に関係のない話から話を広げていく、という話にも発見があって、今度やってみようと思う」と明るい表情で語った。
魚川大以志さん(中2:取材時)は、講義中にもっとも印象に残った部分として、講師によるインタビューの実演を挙げた。
.jpeg)
「短いやりとりの中に、技術が詰まっていた。それに、ずっと笑顔でフレンドリーな雰囲気をつくっていたのがすごかったです。最初と最後にしっかり挨拶をする、というような真似できるところは、すぐに取り入れていきたい」
これからインタビューするにあたって、「取材先の候補は複数挙げるといい、という話があった。今のところ1つしか考えられていなかったので、もっと増やしたい」とも話す。
名倉教諭は「求めていた講義を提供していただいた。特に、取材を生業にしているプロの記者でも、一筋縄ではいかない経験をしている、と知ることができたのが、生徒にとって良い機会でした」と話す。これからインタビューに行くときのメンタルや姿勢に影響を受けただけでなく「これだけの思いで情報を得ているのだとわかると、新聞記事を読む意識や、記事を引用するときの意識が変わるはず」とも言う。
.jpeg)
生徒一人ひとりの身近な関心から始まる、新しい学び。自ら足を運び得た情報から、より広い社会の動向に学びを深めていってほしい。それが名倉教諭の願いだ。
「生徒は社会科での学びの範囲を同心円的に拡大させてきています。自分の足元の出来事が、日本、ひいては世界につながっていると生徒たちが実感できるよう、新聞や実際に人と人が出会い、会話するインタビューの活動をうまく授業に取り入れていきたいです」と名倉教諭。
記者経験者によるインタビュー技術は、探究学習のみならず、生徒の興味関心を広げる手助けにもつながりそうだ。
