33年続く学校独自の探究学習 新聞で深める

海城中学高等学校(社会)

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33年続く学校独自の探究学習 新聞で深める

課題

・中学1年生から質の高い情報や文献に触れ、社会問題に興味関心を持つきっかけをつくりたい
・中学3年の卒業論文執筆で、新聞活用を通じて培った客観的な視点をいかしてほしい
・単なる調べ学習でなく、「中学生は、研究者の卵になれる」という意気込みで取り組んでほしい

 高い学力を持つ進学校としても名高い、中高一貫の男子校である私立海城中学高等学校。建学の精神「国家・社会に有為な人材の育成」をもとに、時代を予測しながら学校改革を進めている。

 1992年からは、価値観が多様化した国際社会には「新しい人間力」と「新しい学力」をバランスよく兼ね備えることが必要だとし、中学校の社会科に、課題設定・解決能力を養う探究型の「社会科総合学習(社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)」を学校独自科目としてスタートした。今日まで33年間続いているこの学習は、同校を象徴する授業のひとつとなっている。

社会の課題を見つけ研究する「社会科総合学習」

 「社会科総合学習(以下、社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)」の中学1年生では、まず社会的な問題に自ら目を向け、自分で研究課題を見つけるところからスタートする。中学2年生までの社会Ⅰ・Ⅱでは、以下の3段階で力を養っていく。

1.新聞記事や書籍、インターネットなどの文献から情報を収集し、活用方法を学ぶ
2.実際の取材を通して調査力を養う
3.得た情報を分析し、レポートに落とし込む力を養う

 さらに上記1~3に加え、他者への礼儀や倫理観、討論や発表を通じて仲間と協力する力を養うこともできる。

 

中学1年生では自ら研究課題を見つけるところからスタート

 最終学年となる3年生の社会Ⅲでは、集大成として1、2学期を使って卒業論文を執筆する。400字詰めの原稿用紙30枚以上という大作で、優秀作品はその年の「社会科卒業論文集」に掲載される。卒業論文集には学年全員の論文タイトルと取材先一覧が掲載されており、そのテーマは教育格差からジェンダー、地域活性化、中小企業や労働問題など多岐にわたる。

日経電子版を活用し、より俯瞰した視点から生徒の興味関心を広げていく

 この社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲで大きな役割を果たすのが新聞だ。社会Ⅰを担当する名倉一希教諭は「授業で活用する新聞には2種類の役割がある」と話す。

 1つ目は「生徒の興味関心を広げる」という役割だ。「中学1年生では『なぜ、電気自動車は環境問題に有効とされるのか』といった理科的なテーマを選んだり、個別事象として完結してしまうような犯罪やスキャンダルを選んでしまう生徒も多い」という。そこで新聞記事を使い「この事件の背景には、このような法制度や社会構造がある」など、より俯瞰した視点につなげ、生徒の関心事を広げるといった使い方を行っている。

 2つ目が、レポートや論文での活用だ。社会Ⅲを担当する渡辺伸弘教諭は、研究論文の執筆においても、生徒に新聞記事の参照を求めている。「研究がある程度進んだ時点で、自分が扱うテーマについて、メディアがどのような論調で報道しているのかを確認させる。それにより自身の調査結果と社会の視点との間にどのような差が生じているのかを発見できる。研究の成果を客観的に評価するだけでなく、メディアの報道に対して冷静で、時に批判的な視点を養う狙いもある」という。また、論文作成にあたっては、日経電子版ならではの保存機能も大いに役立っている。「紙と異なり、ワンクリックで記事をスクラップできる非常に優れた機能」と、渡辺教諭は評価している。

検索機能を使い、客観的な新聞記事を探す

 海城中学高等学校の社会科の授業では、新聞を活用する文化があり、その活用方法については、各教員に委ねられている。中学1年生では「日経電子版 for Education」を1人1台のパソコンが配布される時期に合わせ、2024年度7月から導入した。

 名倉教諭は社会Ⅰでの新聞記事活用の導入として、生徒にテーマを与え、グループで調べて発表するという授業を行った。生徒の社会的な興味関心を高める工夫のひとつで、この時のテーマは「自分たちの身近な社会、生活に関するルール作り」。具体的には「登下校時、近隣住民に迷惑をかけないための対策」を、新聞記事を根拠に用いて提案させた。生徒一人一人がこのテーマを自分ごととして捉えて、解決するためのルールを考えた。

 「社会科の授業としては、前提条件を無視した思いつきの提案ではなく、様々な取り組みや過去におこなわれた対策などを根拠にしながら、自分たちの案を考えさせる必要がある。ブログなどの主観的な記事ではなく、新聞の客観的な記事を引用するという課題にした。生徒は、日経電子版の検索機能などをうまく活用し、実際の大学で行われた対策の記事などを活用していた」という。

グループワークの要項。「登下校のルール」という身近なテーマを扱うことで、生徒は自分ごととして捉えることができ、現実的な対策を考えることになる。

 こうした実践を重ねた結果、2学期の自身の研究テーマを決める際「日経電子版の記事が興味を持ったきっかけ」という生徒がクラスの約1/4にのぼった。「記事を読み自分の興味関心を広げたり深掘りして、課題を選ぶ生徒が増えていると感じている」と名倉教諭は手ごたえを話す。一方で、「本来の新聞の良さは、自分の興味関心以外の情報を取得できるところにある。必要な記事を狙い撃ちで検索することに留まらず、理想は生徒が紙面ビューアーを使うなどして、新たな分野の情報を得ることだが、1年生ではなかなかそこまでたどりつけていない」と課題を感じていることも明かした。

社会Ⅰの2学期レポート。多くの生徒が日経電子版の記事を引用、活用している。

 中学3年生を担当する渡辺教諭は、「社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲでは、教員から研究テーマは指定せず、生徒1人1人が、自ら社会の中から問題をテーマとしてピックアップし、それに対して教員が個別に指導していくというスタイル。テーマ設定の段階で重視しているのが、『問題解決』の前にある『問題発見力』」だと話す。「生徒自身が世の中に関心を持って、その中でどのような問題が未だ解決されずに放置されているかを発見してこなければいけない。解決するためにどうしようかと考えるためには、そもそも問題の本質がどこにあるのかを理解している必要がある。新聞は、こうした理解や発見を促す際に非常に有効な素材」であるとし、日々の生徒の論文指導に向き合っている。

自ら答えを探し出していくことの楽しさを知る

 今年度から社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの授業で導入した日経電子版だが、今後は高校でも引き続き使いたいと、渡辺教諭は展望を話す。

 社会Ⅰのほか地理を担当する名倉教諭は、その副教材としても電子版を活用している。「電子版に掲載されている世界の経済動向など様々な数字やグラフは授業だけでなく、地理で論述問題を演習する際にもとても重宝している」という。

 導入から半年経ち、生徒が電子版を利用する頻度も着実に増えている。「当初は、毎学期のテーマ決めの時だけ利用しているかと思ったが、それ以外でも興味のあるキーワードで検索しながら使うなど、日常的な学習の場面で使う生徒も増えてきた」と名倉教諭は話す。

 「社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは単なる調べ学習で終わるのではない。『中学生は研究者の卵になれる』という考えのもと、取り組んでいる。文献調査に加え、複数の専門家や企業などへ対面取材を行うなど、生徒が自ら実地で得た情報をもとに執筆している。大学受験のための授業ではなく、学び自体が持つ面白さをわかってもらいたい。丸印をもらえることより、自ら答えを探し出していくことが本当の面白さであると伝えていきたい。そのために社会科の教員が一丸となって、生徒1人1人の研究課題を丁寧にサポートしている」と話す名倉教諭。今後も、日経電子版は研究に有効なツールとして、生徒の学びをサポートしていくことが期待されている。

名倉一希教諭(左) 渡辺伸弘教諭(右)

海城中学高等学校

学年:中学1年生、3年生
教科:社会科 総合学習 (社会Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)
授業者:社会科 名倉一希教諭(社会Ⅰ)、渡辺伸弘教諭(社会Ⅲ)

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