課題
・学校独自の設定教科「創知」でより幅広いデータに触れさせ、生徒の興味関心を広げたい
・高校生の段階から学術的な文章に親しみ、原著論文まで読解できる力を養いたい
・授業で学ぶ知識と現実社会を結びつけ、「真の学び」を体験してほしい
大阪の文教エリア・阿倍野に位置し、創立130年を迎える大阪府立天王寺高等学校。地元では「天高」の愛称で親しまれる伝統校だ。2004年度から「スーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)」に指定され、大阪を代表する進学校として知られている。同校の特徴は、独自に培ってきた全人教育「天高育成プログラム」にある。なぜ、天王寺高校は理科分野で、日経電子版を活用するのか。 立川猛士校長のほか、生物・探究学習担当の河井昇教諭、SSH主担の井上孝介教諭、生物担当の曽田泰宏教諭に、同校の有機的な探究活動と、独自科目「創知」について伺いながら、日経電子版の魅力を語ってもらった。
同校では、生徒が自ら課題を見いだす力を育む取り組みの一環として、学校独自の教科「創知」を設けている。日経電子版を導入した背景にも「創知」の授業があった。幅広いデータや学術的文章に触れるこの教科で、生徒の視野をさらに広げたいという思いから導入に踏み切ったという。
「1年生では週に2時間『創知』の授業をおこないます。第一フェーズでは統計学を含むデータ分析を学びます。もともと統計局が提供するe-Statのオープンデータを活用していましたが、より多様なデータを見ることで、物事をうのみにせず考える力、批判的に捉える視点が育つと考え、日経電子版を取り入れました」と、生物と探究学習を担当する河井昇教諭は語る。
「e-Statを使ってデータ分析や探究学習を進めると、生徒たちの選ぶテーマがどうしても身近な題材に寄ってしまう傾向がありました」
同校で日経電子版活用をけん引したSSH主担・井上孝介教諭も、同様の課題を感じていた。「これまで生徒が考えるテーマは『公園の面積と子育て世帯の数の関連性』や『学習塾と学力の関連性』など自身の生活に近いものが目立っており、これを変えられないかと考えました」
河井教諭は日経電子版活用の効果について「電子版には生徒たちが普段なかなか接することのない、幅広い分野の記事が多く掲載されています。これは興味・関心の幅を広げるだけでなく、将来のキャリアイメージ形成や進路の選択肢を豊かにすることにもつながると考えています」と、今後の期待も含めて語る。
1年生の「創知」では、探究学習に親和性の高い科目である「情報Ⅰ」の学びと、生徒が自ら選んだテーマを掛け合わせて考えさせることで、教科を横断した実践的なカリキュラムを実現している。また海外からの留学生に向け、英語でのプレゼンテーションの場を設けている点も特徴の一つだ。「大阪大学大学院に在籍する留学生を招き、2人1組で3分程度のプレゼンテーションをローテーションで進めます。英語科の先生方とも連携し、すべての生徒が自身の探究成果を英語でプレゼンできるよう指導します」(河井教諭)

調べ学習は興味あるテーマを発見するきっかけに
1年生の生物では夏季休暇の課題に日経電子版を取り入れた。担当の曽田泰宏教諭は課題の内容や意図についてこう語る。
「2025年度の夏休みに生徒に課したのは『2020年以降に日経電子版に掲載された生物学関連の記事から、自分が面白いと思えるものを選び、興味を持ったポイントを5分程度でクラスメイトに紹介すること』です。記事をただ読むだけでなく、発表を前提にすることで、生徒たちが内容をきちんと理解しプレゼンに臨むと考えたからです」
テーマを限定せず、多種多様な記事に触れる
生物学に関係する記事を探す際、生徒たちが検索したワードは「魚」「昆虫」「クラゲ」「猫」「コモドオオトカゲ」など個々の生物名から、「iPS細胞」「DNA」「生物研究」「進化」といった関連キーワードまで様々。複数のワードを掛け合わせて検索するなど試行錯誤してより深い記事にたどり着こうとする生徒も多く見られた。

「一部の生徒からは『何から始めれば良いか分からない』という声もありました。『生物学』という大きなくくりではなく、具体的に限定されたテーマのほうが取り組みやすいと感じる生徒も少なくないのかもしれません。ただテーマを狭く絞ってしまうと、生徒がたどり着くのはどうしても同じような記事になりがちです。テーマ設定を幅広くするからこそ生徒たちは互いに多種多様な記事を共有でき、より幅広い視点を得られます」と曽田教諭は狙いを語る。
発表と質疑応答で深まる学び
生徒たちが作成した発表資料はいずれも個性豊かで、視覚的にも工夫が凝らされていた。使用ツールも特に限定しなかったため、CanvaやPowerPoint、さらには手書きの紙芝居方式を選んだ生徒もいた。


作成資料には「参考文献」として原著論文を記載する生徒が多く見られた。発表では質疑応答の時間も設けられており、どのような角度からの質問にも答えられるよう、記事のソースとなった論文や学術サイトまでしっかりあたった生徒が文献として記したのだ。
この点を生物担当の曽田教諭は次のように語る。
「日経電子版の記事をきっかけに、元の論文にたどり着いた生徒が多くいたことはうれしかったですね。私のクラスでは約3割の生徒が原著論文を読んでいました。もちろん全文を読み込んでいるわけではなく、AIを活用して概要を把握しているケースもあると思いますが、それでも大きな一歩です。課題の狙いの一つが『論文を読めるようになってほしい』と「高校生から論文に触れることで、科学的な探究の方法を知ることができると同時に、単純に読んでみるだけでも何かしらの気づきはあり、その面白さに気づいて欲しかったのです。課題を出す際には、日経電子版以外の情報源にもあたるよう示唆していました」いうことでした」

同校が重視するのは「本物志向」である。多くの高校生にとって原著論文は難解で敷居が高いように思われるが、あえて挑戦する機会を与えることで、研究内容について知るだけでなく「学びのプロセス」に気づくことにもつながる。
発表の授業を見学していた立川猛士校長は、質疑応答の場面で「聞く側」の学びが深まっていることに注目する。
「発表を聞く側が内容をしっかり把握し、的確な質問ができるかどうかは重要です。私が見学した40人のクラスでは、的を射た質問を投げかける生徒や、繰り返し質問を重ねる生徒の姿が光っていました。発表する側が何をどう伝えるか熟考するのはもちろんですが、聞く側が精度の高い質問を繰り返すことも互いの学びを深めることにつながります。そうした点でも夏休み明けの発表授業は、非常に濃密な時間でした」
「成績をつける課題」と「自由に取り組む課題」の線引きをする
「今回の課題は、生徒の成績づけを目的としたものではありません」と語る曽田教諭。生徒の発表後、教員はいくつかコメントをするにとどめ、成績には反映させなかったという。
「課題の目的は知識と現実社会を結びつけること、そしてその先にある学問の世界に少しでも足を踏み入れることにありました。点数化の必要性はなかったと考えています」
井上教諭も「成績をつける課題」と「あえて成績をつけない課題」を切り分けることの重要性を指摘する。
「今回の課題のように自由度の高い学習活動まで成績をつけてしまうと、教員側は一定の基準を設けざるを得なくなります。一方で生徒は、周囲と差をつけることに意識が向いてしまうでしょう。知識を身につけるための学習と、自ら知る・学ぶための学習は、分けて考えるべきだと思います」
「創知」とは、知識と世の中をつなげること
立川校長は、「創知」とは知識と世の中をつなげることだと語る。
「狭い意味での学力だけを伸ばし、偏差値の高い大学に進学することが効率的だと考える見方もあります。しかし本校では、学んだ内容や得た知識が世の中と結びついていると気付くことこそ、学問の本質だと考えています」
同校の探究学習では、カリキュラムの各段階で情報の取得手段や表現方法、ディベートでの意見の伝え方など、様々な学びがあり、生徒は自然にそうした能力を身につけ、伸ばすことができる。
「『創知』という本校独自の設定教科はさらに進化しながら、生徒の探究学習を今後も深めていくでしょう。そして教員たちは、より有機的な学びにつながる指導方法を常に模索しています。その中で有効なコンテンツとして日経電子版を活用しています」
作問や講師の選定━━様々な場面で日経電子版を活用
同校では進路指導の柱として天模試(てんもし)という校内模擬試験を行っている。大正時代から続く伝統的なカリキュラムで、現在では3年生を対象に年3回、各教科の授業進度やその時点で身に付けておいてほしい学力を踏まえて実施している。天模試の最大の特徴は、教員がすべての問題をオリジナルで作成している点だ。
天模試の作成に携わる河合教諭は、作問の際に日経の記事を参考にしているという。
「以前から個人で日経を購読しており、生物の問題では日曜日の日経朝刊『科学の扉』面 の記事を作問の素材にしています。今では日経電子版を全校で導入したことで、紙の新聞を購読していなかった教員も同じように記事を作問に活用できる環境になりました」

さらに、同校ではSSH活動の一環として「天高アカデメイア+(プラス)」を実施している。大学の教員や研究機関所属の研究者を招き、放課後に専門性の高い講演会を開催するプログラムで、約1時間の講演と約30分の質疑応答で構成している。生徒たちにとって最先端の研究に触れながら疑問点を直接投げかけ、理解を深められる絶好の機会だ。
「『天高アカデメイア』にお呼びする講師を日経電子版から見つけることもあります。記事を読んで『この研究は面白い!』と思ったら、研究者の方の連絡先を探して依頼してみるのです」と河合教諭は話す。
学術的な情報収集は日経電子版から

「創知」の授業を中心に、今後も日経電子版の効果的な活用を模索していく大阪府立天王寺高等学校。目指すのは、生徒自身が自ら視点を広げ、興味や関心を発見することだ。
SSH主担の井上教諭は次のように語る。「学術的な情報収集は、まず日経電子版から入るという習慣を身につけてほしいですね。動画やSNSといった身近で手軽なツールからは一度距離を置き、日経電子版を入り口にしてほしいと考えています」
生物の課題を通じて日経電子版の有用性を実感した曽田教諭も「いきなり論文を読めと言っても難しいもの。何を読めばよいか分かりにくいし、概要をつかむのも大変です。その点、日経電子版では社会への影響の大きさという点で既に選別されており、新たな分野や今後の注目分野も紹介されるので、生徒たちが自身の将来をイメージするためにも役立つと思います」と話す。
「真の学び」を追求し続ける天王寺高校。本物に触れ、視点を広げ、興味や関心を発見していく。その道筋を生徒自身が描いていくことこそ、同校が目指す学びの姿である。
大阪府立天王寺高等学校
授業者:立川猛士校長、河井昇教諭(生物、創知(探究活動等))、井上孝介教諭(化学、SSH主担)、曽田泰宏教諭(生物)








