頼れる情報を「自分軸」で見極め/~後編~

麻布高等学校

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頼れる情報を「自分軸」で見極め/~後編~

 「ChatGPT」(オープンAI)や「R1」(ディープシーク)など圧倒的な性能を誇るAIモデルが次々と生まれて、猛烈なスピードで進化しています。ビジネス、アカデミア(学術界)に大きなインパクトをもたらしており、学びの価値を揺るがそうとしています。事実と異なる情報を伝える「ハルシネーション」(幻覚)などのリスクがあるのはもちろん、みずからで知性を磨く機会を奪うことにもなりかねません。IT・情報リテラシーについて考えました。

生成AIに潜在的な恐怖、情報の信用度つかめず

教育現場でのAI導入は教師・生徒それぞれが手探りの段階ともいえます。米グーグルはブラウザー「クローム」で、学生の宿題の答えをAIが教える機能を停止しました。みずから考えて解く学習をやめてしまう危うさも踏まえての対応です。これからデジタル時代を担う彼らはAIにどう向き合っているのでしょうか。

柴田慶一朗

 「僕はAIに対する危機感がかなり強いです。生成AIでつくった画像をSNSなどで自分のアイコンにしている風潮は、安易な迎合としてみています。危機感が強いというのは、無機質なものに置き換えられる潜在的な恐怖があるためです。AIは集合知を分割・パッチワークして、それを人間のように出力できるだけにすぎません。AIに過度に頼りすぎるのは、『何のために生きているのか?』という人間らしさを問い直すことにもつながると考えています」

「日経電子版で生成AIの機能(「Ask!NIKKEI」)が使えるようになりましたが、AIに反対する立場からすると疑念を持っています。今でも連載シリーズの過去記事の一覧を表示してくれたり、『トランプ大統領』といったトピックをフォローできる機能がすでに備わっています。日経電子版というみずからが情報を集められるプラットフォームを提供しているのにかかわらず、探究する機会を減らしてしまうAI機能を追加するのは矛盾しているように感じます」

坂本隆馬

 「柴田君ほど厳しい意見を持っていませんが、AIの要約をそのまま受けいれることは危険だと考えています。AIに対して正しい情報源を示すように繰り返し指示し、書籍や記事を紹介させて、そのソースに飛ぶ。そんな知の起点にするには、AIはすごい優秀です」

柴田

 「それはすごく良い使い方。僕も自分で書いた英作文をChatGPTで添削することはあります。そこに思想や考えが入り込む余地がなく、AIのベースとなる大規模言語モデルの平均値をアウトプットと照らし合わせるには助かっています」

AIをテーマに活発な議論を展開する生徒たち。互いの考えを尊重しながら意見を交わしていた
AIをテーマに活発な議論を展開する生徒たち。互いの考えを尊重しながら意見を交わしていた

田中亮成

 「グーグルが提供している検索レベルに近いAIが浸透すれば、SF映画の『マトリックス』のような未来になりかねないと深刻に受けとめています。人間が機械のエネルギー源に使われて、その支配にも気づかず仮想空間ですごす世界です。AIをコスト削減の目的で導入するのは避けられない面がありますが、人間が精神的な活力を失わない方向での使い方を探していくべきです

浅井琉太朗

 「生成AIは発言に対する責任感がなく、その重みが分からないので、好きになれません。例えば、地理について聞きたいことがあれば、地理の先生に聞けば、支えとなる経験や知識を踏まえた回答を得られます。シューズの性能を知りたければ、陸上部のメンバーを頼って声をかけてみます。正確には分からないにしても、誰かに聞くのであれば信用度の濃淡をつかむことができます。AIに対してたずねても温度感をつかみきれません。自分がそれを検証できるのであれば、AIの必要性をあまり感じていません」

玉石混交の発信に惑わされない情報リテラシー

生成AIの急普及によって新たな課題となっているのが、フェイクニュースの拡散です。真偽を確かめにくいような画像や動画があふれ、陰謀論的な情報もアテンション(関心)をひきつけて、SNSを通じて飛び交うことになっています。情報リテラシーをどう身につけていますか。

坂本

 「日経電子版はニュートラルで、客観的な事実を調べるときに助かっています。だからといって、全面的に信頼しているわけではなく、情報を入手する際のソースのひとつと位置づけています。X(旧Twitter)を使っていても、アメリカや中国、ロシアなどのメディアが発信した玉石混交の情報であふれています。どこかひとつのメディアだけに頼るのは避けたいです」

 「世論や市民の感情を都合よく誘導しようとする『制脳権』という言葉を、中国の動きを調べているうちに目にしました。デジタル戦争が始まっているといわれているなかで、どのような情報に信用を置くべきか、みずからが考える力を問われていると思っています」

真剣に意見を交わしながらも、ユニークな考えに思わず笑顔になる生徒たち
真剣に意見を交わしながらも、ユニークな考えに思わず笑顔になる生徒たち

田中

  「身のまわりの家族や友人が、TikTokやInstagramでニュースを手軽にみています。例えば、色々なメディアの情報が集まる『Yahoo!ニュース』では、大手新聞社だけでなく、専門性で勝負するメディアの記事がたくさんあります。専門メディアが発信するトピックはかなり詳しく、その分野の書籍に匹敵するほど深く掘りさげてあります。ただ、仮に誤りがあったとしても、重箱の隅をつつくような議論に偏り、全体像を見失いがちになります。ニュースの全体像をつかみ、一般的な見方を押さえるためにも、大手メディアをチェックするのは望ましい選択肢です。ファクトチェックという意味では、誰が書いたのかが重要だと思っています」

柴田 

「印象に残りやすく、短いメッセージで訴えかける『ワンフレーズ・ポリティクス』が目立つようになってきています。短絡的ともいえるスローガンに流される気持ちも分かりますが、僕は受け入れがたいです。インターネットで評論家のように発言しているコンテンツを視聴していても、支離滅裂だとうんざりすることもあります。筋が通るか通らないか理解するため、さらに嫌いなものを嫌いとはっきり言うためにも、ある程度の知識が欠かせません。ファクトチェックにしても日経電子版だけに限らず、自分にあったプラットフォームを見つければいいのではないでしょうか」

情報への反応の違いを知り、みずからのアンテナを磨く

デジタル時代の活字離れは若者だけともいえません。アルゴリズムでユーザーが見たい情報が優先される「フィルターバブル」、異なる情報が見えにくくなる「エコチェンバー」に陥り、社会の分断にもつながる危うさもあります。こうした課題をどう乗り越えればいいでしょうか。

浅井

 「Xでコメントに驚いたことがありました。「揺れた天秤~法廷から~」のコラムの「給食調理員、パン持ち帰ろうとして懲戒免職 退職金1100万円?奪(9月19日)」という記事の紹介が流れていました。小学校で25年勤めていた女性調理員がパンを持ち帰ろうとして、懲戒免職となり退職金が支払われず、教育委員会を相手取り提訴した事案です。このタイトルだけが関心を呼び『厳しすぎる』という反応も含めて批判的なトーンだったのですが、実際に記事を読んでみると当事者や関係者の言い分にも納得できるところがありました。有料コンテンツを見られるかどうかによって、感じる温度差にかなりの開きがあることを実感できました」

 「報道機関が果たす役割でもあるファクトチェックにもつながることでもあり、記者がみずからの名前を明かして発信する記事は信頼できます。ただ、僕の情報の向き合い方として、メディアが間違っていることが多少はあるというスタンスを持っています。日経電子版が誤った情報を出してしまう可能性もありえます。いくつかのメディアで同じような情報を確認できたら、『正しいんだろうな』という感じで割り切っています」

日経電子版の「フォロー機能」で気になる言葉を登録する生徒も。正しい情報を効率よく得るために活用している
日経電子版の「フォロー機能」で気になる言葉を登録する生徒も。正しい情報を効率よく得るために活用している

齋尾風斗

 「活字に慣れ親しめる環境で育ってきました。芦田愛菜さんにも似たようなエピソードがあって共感しましたが、調味料の裏にかかれた原材料をまじまじと読むような子供でした。そのため記事を読むことが自然に感じられますが、TikTokのようなショート動画が今の若者にとって情報源のひとつであることは間違いありません。例えば、ポッドキャストはひとつの入り口になるのではないでしょうか。日経電子版も多くのコンテンツがそろっていることもあり、ポットキャストをきっかけにして、記事にも関心を向けるのは効果的な手段かもしれません」

坂本

 「効率を重視する『タイパ(タイムパフォーマンス)』、『コスパ(コストパフォーマンス)』にこだわる時代であれば、世界で起きているニュースを瞬時に詳しく報じるメディアは価値があります。日経電子版は他のメディアと比較しても、その情報量の多さは頭ひとつ飛び抜けています。無駄を嫌う大人こそ、そうしたメディアを活用すべきではないでしょうか」

受験を控えた高3の貴重な2時間。5人が真っすぐに、自分の言葉で語ってくれた
受験を控えた高3の貴重な2時間。5人が真っすぐに、自分の言葉で語ってくれた

プロフィール


齋尾 風斗さん(18)
千葉県在住。「18歳になり選挙権を得て、次の選挙が楽しみ」と話し、気になる話題は複数のメディアで日常的にチェックする。オリエンテーリング部・鉄道研究部・お料理研究部の3部を兼務。教育分野の学びに関心がある。


浅井 琉太朗さん(17)
オリエンテーリング部に所属し、日本代表選手として活躍。将来、事業者として競技に関わることにも興味を持っている。卒業した母校が少子化により小中一貫校になったことをきっかけに教職に就くことも視野に入れ、大学は小・中学校の教育を学べる学部を志望する。


柴田 慶一朗さん(18)
討論部・ソフトテニス部・鉄道研究部に所属。「麻布報道新聞」に携わり、アーティストや中央官僚へのインタビュー経験を持つ。文化祭執行委員会及び予算委員会の議長も務め、利害が違う意見の調整や交渉を客観的に見てきた経験から、法律や政治哲学に興味を持つ。


田中 亮成 さん(18)
生物部・水泳部に所属。植物が好きで、自宅マンションではゴーヤのグリーンカーテンを育てる。坂本さんとともに国会図書館で希少な書籍を読み漁るのが最近の楽しみ。大学で人間と自然との関係性について探究し、将来、環境保護に関する仕事に就くことを目指す。


坂本 隆馬さん(18)
生物部をはじめ、地学、麻雀、ブランコなど計15の同好会に所属する。学年で最も学校図書館を利用する読書好きで、国会図書館では古い文献にも触れる。国際政治に関心があるので将来は国際関係の仕事に就きたいと話す。

インタビューに答えてくれた方

麻布高等学校3年 浅井琉太朗さん 齋尾風斗さん 坂本隆馬さん 柴田慶一朗さん 田中亮成さん

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