ニュースは知のエンタメ、ゲームや漫画のノリで楽しむ
日経電子版を積極的に使いこなす高校生に密着する「高校生、日経を読む」。 ニュースに触れる際、どんな気持ちで記事を読んでいるのでしょうか。政治・経済、ビジネスニュースは専門性が高く、読み進めるには心理的なハードルを感じてしまいがちです。
スマホゲームに疲れたら、息抜きがニュース。海城高等学校(東京・新宿)の高校1年生・廣渡悠さんは、記事を読むことを素直に楽しみます。普段から社会課題に目を向け、将来の夢があってこそ、知ることの面白さがあるようです。
知られざるニュース通の顔
2025年9月13~14日、海城中学高等学校で開かれた文化祭「 海城祭 『澪 -MIO-』」。2日間の折り返しともいえる中夜祭は、日中とは違う男子校らしい熱気でこの学校を包んだ。2日で延べ約2万人が訪れる文化祭だが、中夜祭は海城生限定のプログラム。
このメインステージで盛り上がったのが、今年初となる「海城ラップバトル」だ。赤いシャツを身につけて、マイクを手に参戦したのが廣渡悠さん。国旗を羽織ってステージにあがった対戦相手の生徒を前にして「国を背負う覚悟はあるのか!」と火をつけた。「最初は人に見せられるようなものではなかったが練習した」(廣渡さん)。パンチを効かせて観客を沸かせた。

生徒ひとりひとりの隠れた個性が光るのが学校行事の良さだ。廣渡さんにはもうひとつ、「ニュース通」という知られざる一面がある。SNSやテレビの情報ニュース番組の視聴はもちろん、日経電子版のヘビーユーザーでもある。海城生でも利用頻度が際立つ生徒のひとりだ。
ゲーム、漫画のひと続きにニュース
興味がある業界や企業を調べる就活生、小論文対策に励む受験生、そしてビジネスパーソンとも違うメディアとの向き合い方だ。「知る」を純粋に楽しむ。iPhoneのホーム画面からニュースとの距離感がうかがえる。LINEやInstagram、「eFootball」「ブロスタ」といった高校生らしいゲームアプリのあいだに、「NIKKEI」のアイコンが並ぶ。「ゲームの息抜き、休日のサッカー部の遠征での移動中に開いている」(廣渡さん)。
日経電子版のアプリのトップページをスクロールし、目にとまった記事があれば一気読みする。今後の見通しや深掘りする「ニュース解説」、閲覧履歴や関心にあった記事を薦める「おすすめ」に流れる記事から、ピンときたキーワードを見つけてクリックする。
例えば、最低賃金、発効延期が示すひずみ 根拠重視へ審議改革を(2025年10月3日)。過去最高の伸びを足元で記録した最低賃金。ただ急ピッチの引き上げが歪みを生みかねず、持続的な賃上げに向けた論点をまとめた解説だ。子ども食堂や無料塾などの取り組みに関心を持っており、所得格差の解消につながる「最低賃金」は思わず目がとまったキーワードだった。

「正直なところ勉強している感じはない。興味のままに知るのが面白い。歴史好きな友人が、教科書を嫌がりもせず読む感覚に似ている」(廣渡さん)。トップ画面に流れる記事からトレンドをつかみ、話題の波にアンテナを向ける。石破政権の退陣、高市氏が選ばれた自民党総裁選(自民党・高市新総裁)など注目を集める政治ニュースも見逃さない。
ベストセラー小説などの読書経験を通じて活字を読むのは苦にならないが、むしろ「小説や漫画を読む感覚に近い」(廣渡さん)という。ゲームに疲れたら、10~15分で世の中の動きをサクサクと押さえる。関心が満たされれば、ゲームアプリに戻るし、友人にもLINEしたり、宿題を片づけたりもする。ゲーム、小説、漫画などの延長線にある、もうひとつの楽しみの選択肢といえる。スマホネイティブ世代ならではのニュースとの向き合い方だ。

情報感度を鍛える課題
優等生でガリ勉といったタイプではない。部活のサッカーでは中盤のプレーヤーとして練習に打ち込み、エネルギッシュでやんちゃな生徒だ。学校では怒られ役を担うこともしばしばで、クラスメートにも「ニュース通」を知られていない。廣渡さんの照れ隠しがあるにせよ、指導者はその素顔をつかんでいたそうだ。
「授業の取り組みからアンテナが高いことを感じられた」。社会を担当する渡辺伸弘教諭は、提出されたレポートを通じて情報をつかむ力を察していた。中学3年生の卒論で選んだテーマは、子どもたちの学びの機会均等をサポートする無料塾のあり方だった。公、民間で運営される無料塾の関係者にそれぞれインタビューし、こうしたプロジェクトを広げるにはどうすればいいか、じっくりと考えた。大学生になったらボランティアにも加わるようインタビュー先に誘われ、社会課題がぐっと身近に感じられていった。1万2000字にまとめられたレポートは、社会に開かれた鋭い感性が光っていた。

社会の授業では、一筋縄ではいかない課題が与えられている。「教科書に書かれる通りではない社会の現実やその背景を、自分の力でじっくり考えてほしい」(渡辺教諭)。2学期は西洋思想を扱うことになり、現代社会とカトリック・プロテスタントの関係性を論じるレポートを生徒は課された。過去1年以内のニュース記事を引用し、自身の見解を示すことが条件になっている。やみくもに検索しても記事を見つけられず、手がかりさえもつかめない。
1学期は「青年と現代社会」という抽象度が高いテーマだった。日経電子版で「青年」「現代社会」と入力しても検索結果はせいぜい30件、書評や映画評などが主で、ほとんど参考にならない。レポートをまとめ上げるには、キーワード検索にも創意工夫が求められる。それでも渡辺教諭は「記事をやや強引に関連づける事例はあるものの、多様な視点で社会を見つめる力は育っている」と学びの深まりを感じる。生徒は情報感度を鍛えながら、知識や考え方の幅を広げている。
廣渡さんは私「かわいい」「大好き」 自己肯定ソングは心のサプリ(2024年10月5日)の記事をもとにした。流行した楽曲、雑誌、テレビ番組のトレンドから、若い世代の価値観の移り変わりをたどっている。2000年代は他者の目を気にする傾向が強かったものの、「歌の歌詞や雑誌で飛び交う言葉から、最近の若者はありのままの自分の方向性を受け入れるようになっている」(廣渡さん)とレポートにまとめた。「アイデンティティーの確立」に置き換えて、自分らしい考えを展開した。
SNSから多くの情報にさらされ、他人との違いが意識されやすい時代。だからといって、後ろ向きなわけでは決してない。若者が良く使う「自己肯定感」というキーワードも、ありのままの自分を受け入れてポジティブに成長しようとする姿勢のあらわれだ。まわりのスタイルに流されない。自らの個性と等身大の自分を素直に受け入れることで、無理のない行動や習慣が生まれ、そこから将来の夢がみえてくる瞬間がある。
将来は国際的な支援活動を
廣渡さんも将来像を少しずつつかめるようになってきた。大学進学後の子ども食堂や無料塾でのボランティア活動にとどまらず、新興国との経済格差やそれらの国々の貧困問題にも目を向けるようになった。青年海外協力隊などを通してグローバルに社会貢献したい。これも彼が関心事をまっすぐに追いかけ、その延長に描いている姿でもある。

経済格差、貧困の問題を抱える新興国で、自分の力でアクティブに社会貢献したい。いつもの彼を知る友人からすると、この夢も予想外の一面として受けとめられるかもしれない。
渡辺教諭が生徒に読んでほしいと薦めるコラムが「私の履歴書」。経営者や文化人といった著名人の半生がつづられ、将来に向かって歩む若者に生き方のヒントを与えてくれる。「各界のリアルな裏舞台が垣間見え、進路選択を迫られる高校生には大いに参考になる。人生の岐路や困難にぶつかったとき、どのような選択をすれば、どのように道が拓けてくるのかが見えてくる」(渡辺教諭)。10月に連載したサッカー日本代表の元監督・岡田武史は、大学卒業後に社会人選手として活躍、サッカーの本場ドイツで指導者の原点を学び、その後に日本代表をワールドカップ(W杯)初出場を率いた名将。
ホラ同然の夢を語りながら、常に「命懸け」と言っても過言ではない覚悟で、どの仕事も取り組んできた(岡田武史氏「私の履歴書(1)妄想家」より)。日本を飛び出し社会貢献したいと、夢見るサッカー少年に届けたいメッセージだ。
インタビューに答えてくれた方
海城高等学校1年生廣渡悠さん








