「媚びない」先生との真剣勝負 逆質問に食い下がれ
インターネットイニシアティブ(IIJ)と日本経済新聞社は2025年5月14日、帝塚山高等学校(奈良市)の生徒を対象にした共同授業を実施しました。IIJの鈴木幸一会長が自ら同校に出向き、170名の生徒と向き合いました。その様子を密着ルポ形式で3回連載します(文中敬称略)。
常務の一声「よし、出そう」
1992年に創業したインターネットイニシアティブ(IIJ)。資金不足のため郵政省(当時)から事業開始の認可が下りず、焦りの日々は93年になっても続いていた。そんな状況を打開したのが、住友銀行(当時)の常務との交渉だった。鈴木はその会話を生徒に再現して見せた。

常務 「鈴木さん、それ僕になんぼ説明しても、よくわかるようになるとは思えない。ところで、それ(インターネット)はいま、何人ぐらいの人が使っているの?」
鈴木 「今は1000人に満たない。でも10年後はかならず3000万人とか4000万人になります」。
常務 「…そんなホラは聞いたことない」
常務は大笑いしたあと、鈴木の顔をじーっと見つめてこう言ったという。
「君、あんまり失敗しそうな顔をしていないから…。よし、出そう」
融資を決めてくれた住銀につづいて、他の銀行も資金を出してくれた。社員への給料にも貧していたIIJは首の皮一枚つながったのだ。
すかさず「追い質問」
質問者として立っていた2年生の唐澤佑実は、畳みかけるように追加質問をした。一週間前、打ち合わせした大西綾記者からのアドバイスだ。「質問に答えてもらっても、納得がいかなければさらに追加質問をして」。こうすることで、会話がキャッチボールになり、質問は「取材」に近づいていく。
唐澤 「相手の心を掴むコツはなんですか」。
鈴木 「100人いたら99人は相手にしてくれないですよね。それでも情熱を持って説明し続ければ、いつか1人が分かってくれる」
相手の心を掴むにはとにかく「思い」と「情熱」だ。自分が引き出した鈴木の言葉は唐澤の心に響いた。

2年生の小山知紗は、人工知能(AI)について聞こうと決めていた。AIで人間は幸せになれるのかという問いだ。すると鈴木から逆質問が返ってきた。
鈴木 「AIを使ったことある?何に使った?」。
小山 「イラストを描かせたり、検索に使ったりなどです」
鈴木 「AIで幸せになれるか。これは難しい問いだね。技術は色々と変わるし、これまでも変わってきた。そういうものでしょ」
時にシニカルに、ユーモアも
小山は食い下がった。
小山 「幸せかどうかはわからないけれど、技術は推進させていくべき、ということでしょうか」
鈴木 「技術とは、推進すべきであろうとなかろうと、推進しようとする人がいるかぎり進んでいくものです」

物事は「べき論」で論じるよりも、もう少し高い目線から俯瞰する見方がある。同じように、幸せかどうかは主観であり、世の中が変われば人の感じ方も変わる。「幸せ」を定義することは困難だ。こうしたある種の達観が鈴木の返答の底流にある。禅問答のような会話で鈴木は、高校生にそれを理解させようとする。
鈴木と生徒のキャッチボールは単調な直球のやり取りにはならない。ある時はボールすれすれに投げ返したり、変化球も一様ではない。時にシニカルだが、ユーモアも忘れない。問答はこんな具合に続く。
生徒 「資金難の中、従業員のモチベーションを保つためにどうしたのですか」
鈴木 「みんな会社にお金がないと知っていて来るので、モチベーションが落ちることはないんですよ。給料がないと生活が苦しいので、実家から通っている人や独身者を採用したんです」
会場は笑いに包まれた。

繰り出される「逆質問」
生徒 「鈴木さんは悩んだことがありますか?」
鈴木 「君は今、何に悩んでいるの?」
生徒 「部活でリーダーになったのですが、自分の発言に自信が持てないのです」
鈴木 「永久に自分の言葉に自信なんて持てないよ。そういう悩みは健全だから、心配は不要」
生徒 「今の私たちには、昔にくらべて進路の選択肢が多くて、何をやるべきか悩みます」
鈴木 「本当に選択肢は多いのかなあ?」
生徒 「自由になんでもやらせてもらえるということで選択肢が多いかなと」
鈴木 「選択肢を書き出してみたらどうですか?意外にも多くないかもしれませんよ。自分が何をやりたいのか、十代でわかる人もいれば、私のように年が行ってから知る人もいる」

忖度しない、ホンネのやりとり
生徒 「鈴木さんはストイックなのですか」
鈴木 「ジョブズ(スティーブ・ジョブズ=米アップル創業者)はね、天才だった。とにかく突き詰める。アイディアが出ないと大変なんだよね。だから彼はいつも不機嫌だった。自分なりにできることを少しずつ、納得しながらやるといいね。そうでないと周りにとって、感じ悪い人になっちゃうから」
50分はあっという間に過ぎ、最後の質問になった。
生徒 「新たな挑戦に一歩を踏み出す勇気を持つにはどうしたらよいでしょうか」
鈴木 「勇気を持てない人が一歩を踏み出すのは難しいよね。やりたいと思うからやる。やらない理由をあげるのは簡単。逆にやりたいことはとことん突き進む」
子ども扱いして優しくしたりはしない。大人と同様に、スキや無駄、予断のある質問には容赦しない。質問の意図を先取りして忖度したりしない。「媚びない」先生の50分授業は生徒たちに程よい緊張感と、強い印象を残したようだった。

「豊かな社会になってくると、無謀な挑戦をしなくなります。何か新しいことをやろうという時は、必ずこれまでの当たり前とは違う。大学に行き、社会人になっても挑戦をしていかなければつまらない人生になってしまう」
最後は鈴木から、会場にいる全ての人に対してエールが送られた。講義は予定の50分を大幅に超えていた。
おわり
インターネットイニシアティブ(IIJ)
授業者:インターネットイニシアティブ代表取締役 会長執行役員 鈴木幸一氏








